鳩山首相が先に世界に向けて発信した2020年までの温室効果ガス排出削減目標25%(1990年比)を巡りさまざまな議論が起こっている。このことは非常に喜ばしいことである。開かれた議論こそが活性化した民主主義を育てるからだ。
その観点で自民党時代を振り返ると、どうだっただろうか。残念ながら自民党時代には首相であった安倍、福田、麻生の各氏がサミットに出席しても、前向きなチャレンジングな志向を世界に向けて発信することは無かった。どうでもいいとはいわないまでも、代わり映えのしないメッセージしか出せなかった。
それは何故か。自民党時代には頭を使う政治がなされてこなかったからだ。世界では、各国が経済的にも、軍事的にも、政治的にも凌ぎを削りあっているのに、一方日本では、ひたすらに島国根性で、内向きの村の地割と村の利害関係の調整に勢力を注いできた。この自民党政権時代の「ぬるま湯」に浸かり、何も考えずにこれまでの慣習を続けてきた怠惰があらゆる領域で日本を停滞させてきた。国家行政においても地方行政においても緊張感なきことこの上なかった。
今回の宣言は、日本がやっと永い眠りから覚めたことを世界に向けて、そして国内に向けて示したものだ。これが日本再生の一歩に繋がることを期待したい。
ただ、日本の現状を打破しようとする提案に対して、ネガティブな言論も目に付く。例えば先日の読売新聞の「地球を読む」コラムでのJR東海会長葛西氏の寄稿などが良い一例だ。
他のネガティブな言論も大体同じ基調を取っていると思う。大きく見ると次の3点だろう。
(1) 25%と言う数字が具体的な裏づけを積み上げた数字になっていない。また余裕を見た目標設定になっていない。事前国内合意が取れていない数字である。
(勿論、反論する方も具体的な数字を積み上げて反論しているのではない、と言う論理的欠陥をさらけ出しているのであるが)
(2) 国民への経済的負担及び企業への財政的負担が大きく、景気の減速に繋がる。また排出規制基準のより低い国への企業移転や製造拠点シフトが懸念される。結果として国内雇用の縮小、国民生活の逼迫を危惧する。
(3) 1990年基準の妥当性が無い。また日本の削減目標数字が突出している。
これらの指摘を注意深く見ると共通の特徴があることに気が付く。それは、やりたくないために、机上で出来ない理由を上げ連ねると言うものだ。
どのようなプロジェクトでも高い理想とか強い願望が最初にあり、それが方向付け・目標設定を行う。もし目標がトレンドに乗っている、つまり従来の積み上げで達成できるのであれば、ブレークスルーは無くてすむ。でも得られる結果は陳腐なものになりがちである。
一方、目標が従来技術の延長上に位置しないものだとパラダイムシフトが必要になる。25%削減目標はまさにパラダイムシフト、コペルニクス的転回が必要なターゲットなのだ。当然得られる結果はエポックメーキングなものになる。
過去において難しい目標を立て、それでいて成功したプロジェクトはいくつもある。皆様々な試行・実験を通して、不屈の精神と決断力でひたすら突き進んで成功している。第30代アメリカ大統領クーリッジも「この世に不屈の精神に代わるものは何一つ無い」と言っている。
例えば今から50年近く前にケネディ大統領は人類を月に送り届け無事に地球に帰還させる計画を発表した。アポロ計画である。今と比べて、コンピュータ技術も通信技術も比較にならないほどのレベルであったはずだ。しかし計画開始から10年をまたずに計画を成し遂げた。日本では東京オリンピックから5年後の時代だった。勿論アポロ計画は、発表時点での技術のトレンドで見通せた計画ではなかったはずだし、国内合意形成をしてから発表した計画でもなかったはずだ。
更に、はるか昔の紀元前2570年ごろのクフ王のピラミッドも見てみよう。当時の技術と知恵を集めて20年ほどで完成させたと言われている。現在、最新の技術・工法をもってしても5年掛かるとの見積もりがあるのに、しかし先人達は20年で達成したのである。
つまりやる気になって不屈の精神で進んでいけば、革新的な壮大な計画でも達成できるのである。
昨今の日本の状況はと言えば、先のJR東海の会長の話にも出ているように、やれない理由をあげてやらない人間がはびこっている。これは会社でいえばまさに大企業病で、会社組織の大敵である。こんなことはJR東海の会長もご存知のはずだと思うのだが、出来ない理由作りに自らいそしむとは日本の経営者も落ちぶれたものだ。
温室効果ガス25%削減には、エネルギー浪費の削減、エネルギー効率の向上、化石エネルギーに代わる代替エネルギーの開発など、様々な技術及び政策を有機的に結び付ける施策が必要だ。この施策は地域の街づくりと関連するし、町と町を繋ぐ輸送ネットワーク網・情報ネットワーク網とも関連するし、電力パワーネットワーク網も関連する。勿論もの作り産業の構造改革にも繋がるものだ。つまり21世紀の日本の骨格を設計し直す壮大な再生基本設計になるものだと思う。
言い換えれば、温室効果ガス25%削減のプロジェクトは、国内で抱えている様々な問題、例えば硬直化した社会構造の問題、過密・過疎の問題、少子高齢化の問題、高度成長期の成長モデルに変わる成長モデルなどをトータルに取り込んだ解決策にすべきだと思う。
勿論、歴史を見れば、石炭エネルギー革命と蒸気機関の発明を成しえたイギリスがまず蒸気軍艦により世界制覇を成し遂げた。そして第二次世界大戦の頃からは石炭エネルギーに代わる石油エネルギーを用いたエンジンが主流になり、特に戦後にはジェットエンジンの開発を爆発的に推進した米国が航空機技術により世界を制覇することになった。
日本がこれから進めようとしているエネルギー革命は次世代の国際社会の覇者を決めるものになる。米国も中国も強かに開発を加速しているのが実態である。確かに石油の資源枯渇までにはあと数十年はかかると言われている。また長い年月をかけて現在までに構成されてきたエネルギー構成であるが故に、急激にしかも短期的には変われないだろう。しかし確実に石油エネルギーからのシフトは進んでいる。
政策面でもアメリカで排ガス制限の新法案が最近下院を通過した。ガス排出制限の方策を立てない国には貿易(関税)障壁を設けるというものだ。企業が排出基準のより低い国に移転するという動きに歯止めをかける措置である。よくネガティブキャンペーンに使われる、高い排ガス規制基準が国内産業の競争力を削ぐとか、国内産業が空洞化するという短絡的な議論は成り立たなくなるということだ。
また、25%という数字にしても、EUの1990年比での2020年までの削減目標は20%であり、既にEUは2005年までに4%を削減している。方や日本は2005年で7%増大している。これまでの自公政権が、温室効果ガスの削減に対して不屈の精神を持たず、戦略もなく、対応してきたためである。
温室効果ガス25%削減の道は日本の構造改革の道であり、日本再生への茨の道でもある。今回の宣言が、その戦いの宣戦布告だという気概をもって、政府は早く、25%達成に対する負の力を示しつつ、それを乗り越えて目指す21世紀の日本の骨格を提示し、国民と共に知恵と汗をかき、実験を積み重ねながら潔く進んでいって欲しい。
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